3日目
午前10時、俺のホステルの前で会う約束だったのだが、10分遅れてラジがきた。
「ごめんごめん、寝坊しちゃって」
インド人で10分遅れならまだ良い方か。
むしろ遅れたことを謝ったことに対して好感を覚えた。
タクシーで新しいビーチに移動する。
ラジが「朝から何も食べていないからまずは俺の家に行くぞ?もう腹ペコで我慢できないんだ。」と言う。
タクシーの支払いはきっちり折半だった。
マンションの一室に連れていかれた。
レイビー、ラマ、ラカンがいた。昨日と同じメンツだ。
毎度のことだが、会うたびに大仰な挨拶をする。
「また会えて嬉しいぜ、ブラザ〜!」
マンションの一室は確かにとても綺麗だった。エアコンがある。高そうな置物も並んである。
置物の中の1つに金色の歪な丸いものがあった。「これは何か?」と聞いてみると、「純金で塗りたくられた本物のココナッツだ」と言われた。
金持ちはなぜこうも悪趣味なものを購入したがるかと思ったが、まあ、気にしないことにした。
チャイとカレーが振舞われた。どちらもおいしい。
「自分の家のように過ごしてくれて良いよ」とレイビーが優しくさりげなく言う。
それから、ここで1時間ほど過ごしたのだが実際とても居心地がよかった。
なぜならみんな俺に気をかけるでもなく、各々やりたいことをしている。
気を使われて話を振られすぎると逆にしんどい。
反面、こちらからする質問にはしっかりと答えてくれる。
本当に俺が家族の一員にでもなったかのようだった。
無理にお客さん扱いはしない。決してないがしろにもしない。
レイビーから「そろそろ新しいホステルにチェックインしなくちゃいけないんじゃないか?」と言われて、このマンションの一室を出ることになった。
「今晩、ラマが魚を料理するから来ると良いよ。6時にラカンを君の新しいホステルに向かわせよう。」
なかなか食べられない魚料理とこの居心地の良さは魅力的だった。
承諾した。
ラカンがタクシーを捕まえるのを手伝ってくれて新しいホステルに昼過ぎ頃、移動した。
荷をおろして少し休む。
5時50分、再度彼らのマンションの一室に向かうため準備をしてホステルを出る。
表に出ると既にラカンが待っていて驚いた。
ラカンのバイクの後ろに乗り、また同じマンションに向かう。
食材購入がてら市場を案内してくれた。
その場でさばかれる鶏や魚がとても衝撃的だった。
魚と野菜を購入してマンションへ戻る。
レイビー達がいた。
そしてラマが「料理するから手伝ってくれ」とラカンに頼む。
何もせずにいるのは悪いと思い俺も野菜をカットした。
揚げられた魚から香ばしい匂いがする。
カリカリの表面の魚は旨かった。ゴアの観光客向けの店では、魚は高いからなかなか食べづらい。
ビールが振る舞われて、音楽がなり始め、宴会状態になった。
ラジが恥ずかしい過去の下ネタ失敗談を話す。
ラマが明日くる自分の彼女が歌う音楽をかけて踊りだす。
とても楽しかった。みんな笑っていた。
熱い話もした。
「人生の目標は何だ?」という話になった。インド人はこの話が好きだ。
ラマは、「俺は昔、孤児たちを援助するNPOで活動していた。その経験から孤児院を作りたいと思っている。」
立派なものだと思った。
ラジは、「宗教、人種関係のないお寺を作って皆が集えるような暖かい場所を作りたい。」
これまた立派なものだと思った。
レイビーから人生の先輩として俺たちに指導が入る。
「良いか?自分の人生に嘘はつくな。嘘は嘘を生み出すだけだ。真実が一番重要だ。」
今思えば、よくこのセリフが言えたものだと思う。
他にもたくさんの話を聞いた。
「重要なのはお金じゃない。お金はただの手段だ。生まれた時、人は何も持っていない。死ぬときに人は何も持っていけない。」
「何かの目的があるからこそお金を増やすことができる。お金を増やそうという目的はだめだ。」
「世の中には、たくさんの浮浪者がいるが彼らは一概に浮浪者とは言えない。1日に君よりお金を稼ぐ浮浪者がたくさんいる。私は、何度か浮浪者に仕事を与えようとしたが断られた。浮浪者でいるほうが儲かるからだ。」
俺は、この時点でレイビーが確かにお金を持った富豪なのだと思っていた。それ故、かなりの説得力を感じた。
レイビーが本当にお金を持った富豪であると感じた一因は、ラジ、ラカン、ラマたちからとても慕われていたからだった。
こんなに慕われているのは、確かにお金を持っているからだろうと思った。
その他にお金持ちらしい話が、ちらほら出て来る。
レイビーの奥さんは、ユダヤ人で3人の娘と一緒にアメリカに住んでいるらしい。レイビーもこの休暇が終わればアメリカに帰るらしい。
国際的な会社を経営しているレイビーのパスポートはスタンプでいっぱいになり何度も更新したらしい。
今まで行ったオススメの国や都市、陸路での移動方法なども教えてくれた。
「どうしてここまで親切にしてくれるの?」
という質問をすると、
「さっきも言っただろう?死ぬときは、私たちは全ての所有物を天国に持っていけない。それならば、君とシェアして、君がハッピーになれば私もハッピーなのさ。そして、これがインド人のホスピタリティだよ。」
夜遅くまでお酒を酌み交わした。
日を跨いだ頃にレイビーから長旅で疲れているだろうし、そろそろラカンのバイクの後ろに乗ってホステルへ帰ると良いと提案を受けた。
俺は、美味しい料理や楽しい時間を提供してくれたことに感謝を告げた。
「あなた方のホスピタリティに感謝します。」
心からそう思った。
「明日は、私がチキンカレーを作る予定だ。また夜においで。」とレイビーが言った。
帰り道、ラカンの背中につかまりながら「何度も送り迎えさせて悪いね。」と言うと
「俺は、女兄弟しかいないから、本当の兄弟がいるようで嬉しいんだ。気にしないでよ。それにラジやラマと違って俺のことを気にかけてくれるから本当に優しい。俺は本当に嬉しいよ。尊敬する親に日本人の友達ができたと伝えたい。」
俺は、この時ラカンは本当に良いやつだなと思っていた。
今思えば、もう膝まで沼に浸かっていた。