【5日目】インド ゴア 集団宝石運び屋詐欺事件

5日目


ラカンがレイビーの専属タクシーに乗って俺のホステルに来た。

今思えばこれが軟禁の始まりだった。

「昨日はよく眠れたかい?」

いつも通りの会話の入り方だった。

全ての荷物を持って新しい部屋に向かう。

かと思いきや、いつものマンションの一室に着いた。

「まずは朝ごはんを食べよう。」と言うことらしい。

そこには、レイビーとラカッシュがいた。

ラカッシュはインドの支社でダイヤモンドをカットする仕事をしていて今日は遊びに来ていると説明された。

ラカンが作った朝ごはんをレイビーの隣で食べる。

食パンと卵焼き。

他愛ないいつも通りの軽い会話が進む。

「次に行く国はどこだったっかな?」とレイビーが俺に尋ねる。

「インドの次は、イラン。その後は、ヨーロッパですよ。」と応えた。

ここから突如本題に入った。

「そういえば、今度イギリスで展示会があってね。イギリスに宝石を運びたいんだが、手伝わないか?私が会社として運ぶと多額の税金がかかって仕方ないんだよ。君が私の会社から宝石を買って、それをイギリスに送ってくれれば良いだけだ。もし承諾してくれるなら40パーセントの分け前を君にあげるよ。」

なるほど、いわゆる税金逃れか。

俺は、「その取引をするにあたっての最低金額はいくらですか?」と聞いた。

200万円だな。クレジットカードの上限をいっぱいにすれば払えるだろう?さっき40パーセントって言ったけど、やっぱり50パーセントにするよ。200万運んでくれたら100万円を君にあげよう。ちなみにこれは私が君を信じているからできる提案だ。もし君を信じていなければ、君が宝石を持ち逃げするかもしれないからできない。」

恥ずかしながら俺はこの話に食いついた。

宝石を運ぶだけで100万もらえるなら悪い話ではない。

しかし、決して警戒心を忘れてはいなかった。

こっちが理解できるまで何度もしっかりと説明させた。

この取引をするにあたって俺が必要なものは、以下の通り。

  • パスポートのコピー
  • ビザのコピー
  • 国際銀行の口座
  • ビザかマスターのクレジットカード

全て揃っていた。

手順は以下の通り。

  1. インドにて、俺がクレジットカードを使ってレイビーから200万円の宝石を買う。この際、購入する書類を書く必要がある。
  2. 宝石をインドからイギリスに俺の名義で送る。この際、紛失などの時のために保険に入る必要がある。
  3. イギリスに到着後、レイビーと落ち合い俺が宝石を受け取る。
  4. 受け取った宝石をレイビーに渡し、それと同時にレイビーから300万円が俺に支払われる。

俺は、ここでいくつかの質問をした。

Q「イギリスにいつ着くかわからない。イギリスに着いた時にレイビーがいるかわからない。」

A「いとこがイギリスの支社にいるから問題ない。」

Q「そもそも、イギリスで300万を支払わずに事前にインドで俺に300万円振り込んでもらえれば良いのでは?」

A「インドの政府が銀行取引を監視をしているために違法になる。」

Q「だが、300万円受け取れなかった場合の保証がない。」

A「イギリスで宝石を受け取って売れば良い。宝石自体は300万円以上の値段がする。だからこの取引は私にとってリスクだが、君にとってはリスクはない。私は君を信じている。」

Q「クレジット決済期日までに300万円もらえなかった場合は、どうする?200万円もの大金は所持していない。」

A「できれば、クレジット決済までにはイギリスに来てもらいたいがその場合は、国外から君の口座に300万円を振り込む。少し手間なのでこれはやりたくないが。。。」

と思いつく限りの質問をしてみたが、うまくかわされる。

もちろん、完全に納得したわけではなかった。

最終的に、

「まあ、君の出国まで時間はあるし悩んでくれればいい。やるかやらないかは君に任せるよ。やらなかったとしても君は私の友達なことには変わりないんだから。」

今思えばレイビーはやはり他の詐欺師とは一味違う。

こちらに猶予を持たせる。決してゴリ押ししない。

ゴリ押ししないことで、リアルに見える。

あたかも、お金持ちのおじいさんが「私としては、200万ぽっちの端金の税金なんて払おうが払わまいがどちらでも良いのだが、君にとってもプラスになるし、まあ私にとってもプラスになるのだからもし君がやりたいならやってあげていいんだよ。」と言っているように見える。

とりあえず回答は先延ばしになった。

ここからラカン、ラカッシュと新しい部屋に移った。

新しい部屋へはタクシーで連れていかれた。周りに畑が広がる場所に立つマンションだ。カフェも店も何もない。

そして、移動中もずっと取引について考えていた。

もし受けるとするならば、

  1. インドにいる時点でキャッシュで200万円はもらうこと。
  2. レイビーの身分証明書を写真で取らせてもらうこと。
  3. レイビーの会社のホームページを見せてもらうこと。

もし逃げられた時のために、キャッシュで事前にもらっていれば損害はない。何かあった時のために身分証明書は絶対に必要だ。レイビーの会社さえ把握していればレイビー自身と連絡が取れなくなった場合にも連絡できる。

身分証明書はでっち上げられるが、会社のホームページは簡単にはいかないだろう。レイビーの会社だと確信できるホームページがあれば取引を受けても良いかもしれない。

ただ条件1は絶対だと思っていた。キャッシュでもらえなければ、裏切られた時の保険が利かない。

もしこれらの条件を飲んでもらえれば交渉を受けよう。

実際、100万円に目が眩んだのもあるが、俺はお金を生み出すことに興味があった。

この取引の怪しさも理解していた。

こういう場合、この取引のことを忘れて旅を続けることが全うで善良なのだろうとも理解していた。

だけれども、こういう機会(チャンス)にお金を投資できる人間こそ大きなことができる人間なんじゃないのだろうか?

チャンスで逃げてばかりいてはいつまで立っても前に進めない。引きこもりと同じだ。

たかが100万円だが、目の前に現れたチャンスからは逃げたくなかった。

また、「こんな大掛かりな詐欺あるだろうか?」とも思っていた。

絡んでいる人は全部で6人。中には、フランス人の女性だっている。

みんなこのお金持ちを尊敬していて、各々が話すことの辻褄も概ね合っている。

何度も食事を振舞ってくれたし、何度も送り迎えをしてくれた。

俺一人を騙すことに、全員でここまでするだろうか?

などなどと色々と葛藤していたが、それ以前に思うことがあった。

ネットに繋ぎたい。

ネットに繋いで調べたいことがある。

海外で同様の詐欺が起こっていないだろうか?

起こっていないにしても、

本当にインドから宝石を輸出することに高額の税金がかかるだろうか?

また、

信頼できる友達にも相談したい。

まずはこれら下調べをしてからでないと取引はできない。

新しい部屋に着いた。想定していたが、Wifiはなかった。

鍵が渡されてみんなと別れるのかと思いきや、ラカンとラカッシュもこの部屋に泊まるそうだ。鍵は彼らが管理する。

部屋の構造は、ドアを開けると玄関や廊下はなく、いきなり大きなリビングが目の前に広がる。

玄関ドアの向かい側には、リビングを挟んでドアが2つ並んでいてそれぞれがベッドルームになっている。両ベッドルームは、内側から鍵がかけられる。

そのうち1つのベッドルームが俺の部屋として与えられた。実際に与えられた部屋がこちら。

昨日まで一泊数百円の宿に泊まっていた俺からすれば高級な部屋である。エアコンだってある。

あとは、リビング直結のキッチンと、奥の方にトイレがある。

外にはプールだってある。

冷蔵庫の食べ物飲み物は好きにして良いそうだ。コーラやらビールやらが入っている。

まず部屋に着いてから荷を下ろしてパスポートなどの最重要貴重品は携帯し、PCなどの貴重品は、メインバッグにいれてしっかりと鍵をした。

ラカンに「Simカードが欲しいんだけど、買いに行ってもいいか?」と尋ねる。

「今はマーケットが終わってお昼ご飯を食べる時間帯だから16時頃行くのが良いよ。それまでは映画でもみよう。」とのことだった。

この時、14時頃だった。よくわからん理由づけだったがとりあえず従うことにした。

ラカン、ラカッシュと三人で映画を見た。

ラカンが途中で飲み物などの買い出しに行った。

ラカッシュが空気を持たせるために質問してきた。

「なんでそんなにSimカードが欲しいんだ?インドにはあと10日ほどしかいないならSimカード買わないほうがよくないか?」

流石に、『君達の尊敬するレイビーが言っていることが本当かどうか確かめる為だよ。』とは言えない。

「あ〜、、、ニューデリー着いた時に使うからさ。」

「ニューデリー着いたらホステルのWifi使えるじゃん。」

「ホステルたどり着くためにネットがあった方が便利だろ?」

「ふ〜ん、そうかな〜。」

何だか不服そうだった。

探りを入れるために、こちらからもラカッシュに質問することにした。

ラカンとは、もう随分と長いこと俺と一緒にいて良い関係を築いていたのでどんな質問をしてもうまくかわされそうな気がしたし、ラカンに俺が怪しんでいることを悟られたくなかった。ちょっとした質問でも、ラカンなら俺が疑っているのを悟りそうだった。それに対してラカッシュはそこまで頭が回らなさそうだったので気兼ねなく質問できた。

「ラカッシュは、レイビーの支社ではどんな仕事をしてるの?」

「ダイヤモンドをカットしているのさ!インドの〇〇という地域さ!〇〇知らないの?インドの中でも、とっっっても有名だぜ〜???」

(レイビーの話と辻褄は合うか。しかし、うざいなこいつは。)

「あ、そういえば俺は日本の歌を知ってるぜ!シアワセナラテヲタタコウ♪シアワセナラテヲタタコウ♪どうだ?すごいだろう?へーい!」

ハイタッチを求められる。うざい。

「どこでその歌知ったんだ?」

「兄貴の彼女が日本人なのさ!」

「兄貴とその彼女の写真見せてよ。」

「、、、あ〜、あったら見せるよ。携帯をレイビーの部屋に忘れて持ってないからあとで探すよ。。。」

「そうか、ところで、レイビーの会社名ってわかるか?」

「俺は支社勤務だから、よくわからないな、、、。」

「支社勤務でも流石に本社の名前ぐらいわかるだろ?」

「いや、ちょっと待ってちょっと待って、聞いて!俺は、支社なの!支社はさっきも言った通り〇〇にあるの!〇〇はデリーから400kmなの!ね!わかった?わかったよね!?」

「いや、だから俺は本社の名前聞いてるんやけど、、、!!」

ガタン!

ラカンが帰ってきて話が途切れた。

(くそ、まあ、いいか。)

ちょうど16時頃だった。

「ラカン、俺Simカード買いに行ってくるわ。マーケットにはどうやって行けばいい?」

「ああ、俺も着いて行くよ。」

「いいよ、悪いから。休んでいなよ。」

「いやいや、インド人がついて行った方がスムーズだよ。」

そして、いつも通りラカンとバイクに二人乗りしてマーケットに向かう。

「どうしてそんなにすぐにインターネットに繋ぎたいんだい?」

ここでラカッシュと話した時よりはちょっと返答を変えることにした。

「実は、昨日日本で地震があって友達が怪我したそうなんだ。心配でたまらない。」

「そうか、それなら早くインターネットに繋がないとな。」

ちょっと緊迫感を持たせることにした。これで最悪の場合、その友達に何かあったとかなんとか言ってヒステリックを起こせば、逃げるための1つの理由にはなると思った。

そこから、Simカード屋を回ったがゴアでSimカードを手に入れることはチェンナイよりも困難だった。

「チェンナイではかなり簡単に手に入ったのにな。」

店員が「日本人のアライバルビザではSimカードを買うことができない」と言う。

「なぜだ、頼むから買わせてくれ!」と食い下がっても、

「政府が決めたことだから無理だ!」とキレ気味に言われ、諦める他なかった。

他にも数軒、頼み込んだが無理だった。

日が暮れる頃にマンションに戻った。

帰り道、マンションから2kmほど先にFreeWifiのバーがあったのを見逃さなかったし、その道順もしっかりと覚えた。

ラカンが「レイビーならなんとかしてくれるからレイビーに会うまで待とう。また、今晩レイビーのところでご飯を食べるから。」と言う。

どうやら俺のスケジュールはもはや彼らの管理下にあるようだった。

ひとまず頷いたが、レイビーに頼む気はなかった。

俺は、マンションについてしばらく自分の部屋で大人しくしていたが、

「やっぱり日本にいる友達が心配でならない!今からバーに行ってWifiを繋いでくる!バイクのキーを貸してくれ!」と言った。

「でも、もう夜遅いし、もうすぐご飯を食べにいかなきゃ。」とラカンが言う。

「いや、どうしても今つなぎたい!心配だ!」

「友達に何があったというんだ?」とアホ面のラカッシュが笑いながら口を挟んでくる。

ラカンがヒンディー語で日本での地震の旨を説明する。

それを聞くとラカッシュは

「そうなのか!君は本当にラッキーガイだ!インドにいて地震を避けることができたのだから!ラッキー!ラッキー!

日本での地震は大きいものではなかったし、怪我している友達も嘘だったのだがコイツのこの発言は俺をとても苛立たせた。

挙句、「シアワセナラテヲタタコウ♪だな!」と歌い始めた。

ラカンがラカッシュに対してやめろと注意する。

ラカッシュがラカンに「なぜ?」と問う。

このいざこざに乗じて半ば強引にバイクのキーを借りた。

「絶対に1時間以内には帰って来て」とラカンに言われてバーに向かう。

バーについてWifiに繋ぎ、まずは日本の信頼できる友達に今の状況を説明するラインを送った。

その後、自分で同様の詐欺がないか調べる。

「海外 宝石 詐欺」

「宝石 輸出入 税金 詐欺」

「インド 宝石詐欺」

ドンピシャで引っかかった。

♪Bacchusを捜して ~世界一周跡~

なんと今置かれている自分の状況とほぼ同様の詐欺事件にかかった人のブログ記事を見つけた。

俺の疑念は確信に変わった。

そして、ここから俺の目的が変わった。

どうやってコイツらから逃げようか。

今考えれば、ラカンとラカッシュは完全に俺の見張り役。一人で外に出そうとしないのもこのためか。

気づけば俺はこの時既に、軟禁状態にあった。

まずは、あいつらに気付かれずに全ての荷物を持ってあの部屋を出る方法を考えた。

俺の荷物は総重量が20kgを超える。

走って逃げるのはまず無理だ。

仮にあいつらから気付かれずに荷物を持って部屋を出たとしてもこのマンションは、俺にとって陸の孤島だ。

マーケットは歩いて行ける距離にないし、周りには公共のタクシーやバスも通らない。

そして、夜中にはアイツら以上に危険な犬やら牛やらが路上をウロウロしている。

浮浪者だっている。

昼間に適当に何か理由をつけて出るのも良いが、レイビーに来られたらめんどくさそうだ。

色々考えた挙句、俺は決めた

今夜、夜逃げしよう。

ブログの人はすごい。最後の交渉段階まで詐欺とわかっていながら詐欺師とともに過ごして食事代を払わせている。

俺にこの肝っ玉はなかった。虎視眈々、準備万端に俺から200万円を奪おうとする輩を見るのもツラくなった。

ただこのブログの人が最終段階まで来て無事だったと言うことは俺に安心をもたらした。やはりインド人は、嘘はつくが危害は加えないようだ。

明け方ギリギリにマンションを出よう。日の出が出たらそれなりに車が走るからヒッチハイクして捕まえよう。

野良犬やら野良牛やら浮浪者やらには出会わないことを祈るしかない。

約束の1時間から30分過ぎてから部屋に戻った。

部屋には鍵がかかっていて、誰もいない。

(どうなっている?)

そう思いながら10分ほど玄関で待っているとラカンとラカッシュが息を切らして「どこに行ってたんだよ〜、心配したよ〜」と言う。

どうやら俺を探しに行っていたようだ。

21時ごろ。

晩御飯を食べにレイビーのいるいつもの部屋に行こうと言われたが、今日はもう疲れて頭が痛いから寝ると伝えた。

そして、自分の部屋に閉じこもり鍵をかけて明け方を待った。

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